悪質クレーマーは言いがかりや架空の被害を主張し、従業員を脅したり、営業妨害をすることで、自分たちの要求をなんとしても受け入れさせようとしてきます。お店や従業員を守るためにも、悪質クレーマーの行為がどこから不法行為なのか正しく理解しておきましょう。
■ 体調不良との因果関係は証明が難しい
飲食店を経営していると、いつか遭遇する可能性があるクレームとして、「食事したら体調が悪くなったから慰謝料を払え」というものです。非常にやっかいなクレームですが、ここで重要なのがお客様の体調不良とお店が提供した食事の因果関係です。
保健所による調査で食中毒であることが判明すれば、お客様の体調不良は原因がはっきりしており、食事代の代金返金はもちろんのこと、病院の治療費支払いや、仕事を休んだことによる休業補償をしなければなりません。
お客様が体調不良による治療費や金銭補償を求めてくる法的根拠は、民法415条の「債務不履行」や民法570条の「売主の瑕疵担保責任」に基づきます。しかし、因果関係が証明できない場合はお店側に過失がないことになり、治療費や慰謝料を支払う必要はありません。
仮にお店で期限切れ食材を誤って使用していたことがマスコミに報道された場合、必ずと言っていいほど、報道後に体調不良を訴えるお客様が現れます。すごく神経質なお客様であれば、特に悪いものを食べていなくても、気にするだけで腹痛などの症状が起きるからです。
ここで重要なのは食事と体調不良との因果関係ですが、多くの場合で因果関係があることは証明できないため、お客様がお店側に訴える損害賠償に応じる必要はありません。
■ 汚れはクリーニングでの原状回復が基本
飲食店で起こるトラブルとして、お客様の衣服やカバンなどの持ち物を汚してしまうケースがあります。従業員が配膳する際にうっかり飲み物をこぼしてしまい、お客様の衣服にかけてしまう場合は、責任の所在は明らかにお店側になります。
しかし、どんなにお店側に責任があったとしても、クレーム対応の原則は「原状回復」であり、衣服やカバンを汚してしまった場合は、クリーニングしてきれいにすることが基本となります。
つまり、「新品のスーツに買い替えろ」「新しいカバンを買え」「飲食費を無料にしろ」と言って金銭やサービスを要求してくるのは過剰要求ということになります。
悪質クレーマーの中には金銭を脅し取ろうとして、わざと自分の衣服を汚し、お店や従業員のせいにしてくるケースもあります。
ガラの悪い数人に囲まれて脅され、恐怖のあまり要求に応じて金銭を渡してしまうケースもありますが、一度そうしてしまうと更なる要求をされたり、系列店が狙われることもあります。
そのため、その場しのぎの金銭やサービスで逃げるのではなく、「お店としてはクリーニング対応しかできない」ということをはっきる伝え、お客様に諦めていただく必要があります。
■ 執拗な金銭の要求は強要罪に該当する
悪質クレーマーの中には、何度も来店して金銭を要求し続けるなどの迷惑行為に及んでくる場合もありますが、その場合は不法行為として警察や弁護士に相談する必要が出てきます。
金銭の支払いを拒んでいるにも関わらず、何度も要求してくる場合は「強要罪」、何人かで取り囲んで脅してくる場合は「威力業務妨害」や「恐喝」に該当する可能性があります。
また、度重なる来店によって迷惑をこうむっている場合は入店拒否の意思を示すべきです。入店を拒否しているにも関わらず来店した場合は「不法侵入罪」に該当します。
これらの行為が不法行為であると理解し、悪質クレーマーに対して法的手段を検討する旨を伝えれば、多くの場合で要求を諦め、来店しなくなります。
■ お店には忘れ物を管理する義務が発生する
飲食店などを経営していると、お客様の忘れ物は日常茶飯事に遭遇します。お客様が引き取りにこないような価値のほとんどないものから、現金の入った財布、パソコンなど、忘れ物はさまざまです。
忘れ物というとお客様に過失があるように聞こえますが、忘れ物として預かった瞬間から、忘れ物の管理義務がお店側に発生するようになります。これは民法上の「事務管理」と呼ばれるものです。
つまり、預かっている忘れ物を紛失したり、壊したりした場合には、お店側が注意義務を果たしていないということになり、損害賠償を求められることになります。
やっかいなのは、その損害の程度です。傘をなくしたなど、損害がはっきりしている場合は商品の代金を支払えば問題ありません。しかし、パソコンや重要な書類を紛失、または壊してしまい、仮に1億円の商談を台無しにしてしまった場合には、相応の損害賠償を求められることが想定されます。
そのような場合、パソコンや書類がなくなったことで商談にどのような影響を及ぼしたのかなどが裁判所で争われ、社会通念に照らしあわせた被害額が判断されることになります。
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